休日に会うと普段着はすごくオシャレなのに、スーツを着た瞬間に「……なんだかもったいないな」と感じてしまう大人の男性がいます。
何を隠そう、私自身も休日のカジュアル服では色をたくさん使ってコーディネートを楽しんでいます。 スニーカーに鮮やかな色を入れたり、小物を重ねたり。「色を使ってファッションを楽しみたい!」という気持ちは、男として痛いほどよく分かります。
だからこそ、スーツを着るときにもつい色を足したくなってしまう。 しかし、スーツの世界は普段着と真逆で「徹底的な引き算の美学」です。
カジュアルの感覚で色を足し算していくと、全体の纏まりがなくなり、視線があちこちに散って一気に安っぽくなってしまいます。 大人のスーツの絶対鉄則は「全身で使う色は、多くても3色まで」。 そしてもう一つ、大人の胸元(Vゾーン)が一瞬でビシッと整う「ネクタイと衿(ラペル)の数学的な法則」があります。
ネクタイは「スーツのラペル幅」に合わせるだけで勝手に纏まる

「ネクタイを選ぶとき、何を基準に買えばいいのか分からない」 そんな方に、仕立て屋として最もシンプルで強力な答えをお伝えします。
「ジャケットのラペル幅(衿の太さ)と、ネクタイの大剣幅(一番太い部分)の長さを揃える」
たったこれだけです。これだけで、胸元のVゾーンは驚くほど美しく纏まります。
- ジャケットのラペルが「7cm」なら ➔ ネクタイの大剣幅も「7〜8cm」
- いま主流のラペルが「9〜10cm」なら ➔ ネクタイも「太め(8.5〜9cm前後)」を合わせる
スーツの胸元がチグハグに見える最大の原因は、「衿の太さと、ネクタイの太さがケンカしているから」です。 実は、ネクタイ売り場を見れば今のトレンドが分かります。「店頭に大剣幅の太いネクタイばかり並んでいるときは、世の中のスーツがワイドラペル(太い衿)主流になっている」ということです。
しかし、ここにスーツ選びの最大の罠があります。 「流行りに乗りすぎると、皆と同じ量産型になって、かえってダサくなる」ということです。

6年前のスーツが、今見ても全く色褪せない理由
写真をご覧ください、このお客様のダブルブレストスーツ。実はこれ、今から6年前(2021年)に当店で仕立てたスーツで、写真もその当時に撮影したものです。
当時、世の中はどんなスーツが流行っていたか覚えているでしょうか? そうです。足首が出るような短い丈、ピタピタに細いスラックス、衿の細い「細身(スリム)スーツ」が全盛の時代でした。
しかし、このお客様は言いました。 「流行りなんてどうでもいい。自分が頭の中でイメージしている、本当に格好良いスーツを作っ欲しい」
そこからお客様と私で、あーでもない、こーでもないと意見をぶつけ合い、こだわり抜いて形にしたのがこの一着です。

- 色使いの引き算: ニュアンスのあるNAVYブルーのスーツに、白シャツ、そしてタイ・靴・ボタンをブラウン系で統一(全身3色以内)。
- Vゾーンの調和: 堂々としたワイドなピークドラペルに、太さのあるクラシックタイをジャストに合わせる。
- 絶妙な足元の抜け感: カチッとしすぎず、味わいのあるブラウンスエードのブーツでクラシックカーの空気感に溶け込ませる。
6年経った今、この写真を見てどう感じるでしょうか? 「古臭い」どころか、「今まさに仕立てた最新の一着です」と言っても誰も疑わないどころか、圧倒的な色気と風格を放っています。
これが、「流行りを追わない、自分のスタイルを持つ」ということの答えです。
「何でも出来る人は、何でも出来ない」
こういう「自分だけのスタイル」を作りたい方こそ、オーダースーツの世界へ飛び込んでほしいと思います。 ただし、ここで一つ、仕立て屋選びにおいて絶対に知っておいてほしい現実があります。
それは、「私の店でなくても全く構わないので、作る人(テーラー)とあなたの感性が合うかどうかが全てである」ということです。
たとえば、プロのカメラマンに撮影を依頼するとき。 「プロだから誰に頼んでも安心」と思うかもしれませんが、実際は違います。
- 風景を撮らせたら天下一品のカメラマン
- 料理を美味しそうに撮るのが得意なカメラマン
- 動きの激しいスポーツ撮影が得意なカメラマン
それぞれ専門や得意分野が全く違います。自分の撮りたい写真と、カメラマンの得意分野がぴったり合致して初めて、イメージ通りの最高の写真が生まれます。
スーツの仕立て屋も、これと完全に一緒です。 「当店は何でも作れます!細身のモードから伝統的なクラシックまで何でもお任せください!」と言う店もありますが、私はこう思います。
「何でも出来る人は、何でも出来ない」
すべてのスタイルを器用にこなすということは、どれに対しても突き抜けた哲学や美学を持っていないということの裏返しでもあります。
私が「スリムスーツ」をお客様に勧めない理由
正直に告白します。 私自身、ピタピタのスリムスーツを作るのは得意ではありません。
技術として仕立てることは当然できます。型紙を引いて細く縫うだけですから、プロとして作れと言われれば作れます。 ですが、私自身がスリムスーツを一切着ないからです。自分が心から愛してもいないし、着てもいない服を、大切なお客様に「これが最高ですよ!」と胸を張ってお勧めすることなんてできません。
私の圧倒的な得意分野であり、愛してやまないのは、「1950年代のクラシックスタイル」です。

細いだけのスーツには絶対に真似できない、重厚感と男の威厳。 まさに「ザ・漢(おとこ)」と呼ぶにふさわしい、時代を超越した圧倒的な色気が、50年代のクラシックには詰まっています。
ただし、ここで「腕の見せどころ」があります。
当時のヴィンテージスーツを、当時の型紙や仕様のままそっくり再現してしまうと、肩がガチガチに張りすぎて重たく、ただの「時代遅れの野暮ったいコスプレ」になってしまいます。
私が手掛けるクラシックスタイルは、単なる懐古主義の昔の服ではありません。
- 肩パッドは薄いものに変える
- 胸の毛芯(けじん)は軽く、しなやかに身体へ沿うものを選ぶ
外見の醸し出すワイドな迫力や「ザ・漢」の無骨なシルエットはそのままに、見えない芯地や肩まわりを現代の軽やかな技術でアップデートを施す。
この「目に見えない小さな調整」があるからこそ、鎧のように重苦しくならず、現代の日常でもサラリと羽織れて、時代を超越した大人の色気とモダンな佇まいが完成するのです。
体格が良くなり、人間としての厚みや人生の深みが出てくる40代以上の男性がこのクラシックスタイルを身にまとったとき、それは流行の服を遥かに凌駕する、その人だけの「一生モノの鎧」になります。
結論:流行りを追うな。「自分のスタイル」を貫け

スーツのトレンドは、時代とともにコロコロと変わります。 細くなったり、太くなったり、丈が短くなったり長くなったり。
そんな移り気な流行に振り回されて、数年ごとにクローゼットのスーツを古臭く感じて買い換えるのは、もうやめにしませんか?
- 全身の色を3色以内に削ぎ落とす
- 衿幅とネクタイ幅の黄金比を守る
- 誰かの真似ではなく、自分の美学に合った「自分のスタイル」を仕立てる
流行を追うのが格好良いのではありません。 「10年経っても変わらず、自分を一番誇らしく見せてくれるスタイルを持っている男」こそが、いつの時代も最高に格好良いのです。
「流行の細身スーツにずっと違和感があった」 「50年代のような、無骨で男らしく、色気のあるクラシックを着こなしたい」 「自分だけのスタイルを、あーでもないこーでもないと言いながら一緒に作ってくれる仕立て屋を探している」
そう思ったら、いつでも佐々町のL’ECRINの扉を叩いてください。 流行に媚びない、あなただけの本物のスタイルを、魂を込めて仕立て上げます。
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