仕立て屋という仕事をやっていて、1年の中で私が「一番好きだな」と心から思う瞬間があります。
それは、成人式を迎える息子さんが、お父さんやお母さん、時にはおじいちゃんやおばあちゃんと一緒にご来店されて、みんなでワイワイ言いながらスーツを決めている光景です。

20歳の男の子って、普段は親とろくに喋らないじゃないですか(笑)。 家では「メシ」「うん」「別に」くらいしか言わなかったり、ちょっと反抗的だったり、照れくさくて距離を置いていたりする年頃です。
当店に来られるお客様の多くは、「オーダースーツを作るのが初めて」というご家族ばかり。 生地の選び方や仕立ての仕組みを一通り丁寧に説明するのですが、親御さんは最初あれこれ口を出しながらも、最後は必ずこう言って微笑まれます。
「まあ、結局は本人が一番気に入る、好きなものを着せてやりたいんですけどね」
この親心、本当に痛いほどよく分かります。 だからこそ、親御さんの温かい想いをしっかり受け止めた上で、私はそこからご本人と1対1で腹を割って本音を語り合います。 「お前は成人式で、本当はどんな男に見られたいんだ?」と。
すると、普段は親の前で無口だった男の子が、 「母さん、これ派手すぎるかな?」 「親父、このボタンとこっち、どっちが良いと思う?」 なんて、見たこともないような笑顔で、親御さんとめちゃくちゃ楽しそうに相談し始めるんです。
この光景を見ているだけで、私はもう胸がいっぱいになってしまいます。
「おじいちゃんのスーツを着たい」と持ってきた青年の話

忘れられないお客様がいます。 ある若いお客様が、「成人式で、おじいちゃんが昔着ていたスーツを着たいんです」と、大切そうにお店へ持って来られたことがありました。
見せていただくと、生地も仕立ても本当に素晴らしい昔の逸品でした。 ですが、時代も体型も違います。肩パッドの大きさ、着丈の長さ、ウエストや太ももの太さ……。今の20歳の青年に合わせてお直ししようとすると、骨格のサイズ感が根本から違いすぎて、直すだけで新しいスーツが買えるほどの高額な費用が掛かってしまう状態でした。
普通のお店なら、 「サイズ感が全然違うし、直しても高くなるから無理ですね。新しく買った方がいいですよ」 と断って、そこで話は終わりだと思います。
でも、おじいちゃんへの感謝や、そのスーツを着て成人式に出たいという青年の想いを知っているのに、そんな冷たいこと言えないじゃないですか。
そこで私は、彼とご家族にこう提案しました。
「おじいちゃんのスーツの形を無理に直すのはやめよう。その代わり、君の身体にぴったり合わせた新しいスーツを仕立てて、そこに『おじいちゃんのスーツのボタン』を移植して受け継ごう」
長年眠っていたスーツだったため、経年劣化で割れてしまっているボタンもあり、すべての箇所に揃えることはできませんでした。 でも、割れずに残ってくれた綺麗なボタンを、新しく仕立てたジャケットの「袖口のボタン」として大切に縫い付けました。
成人式当日、彼は自分の身体にピタリと吸い付く真新しいスーツを着て、手元には確かにおじいちゃんの温もりを宿して式典へ向かいました。 モノを直すだけが仕立て屋の仕事じゃない。「家族の想いを受け継ぐこと」こそが、服作りの本質なんだと、私自身が深く教えられた瞬間でした。
迷っているなら、事前に親御さんだけでも気軽に相談してください
毎年、成人式のシーズンが近づくと、 「息子にスーツを着せたいんですが、どんなものがありますか?」 「予算があまりないのですが、相談に乗ってもらえますか?」 と、親御さんから事前にお電話やメッセージでご相談をいただくことがたくさんあります。
迷っている親御さんは、本当に遠慮なく、お一人でも気軽に相談にいらしてください。
スーツの価格や仕組み、成人式までのスケジュールなど、何でも包み隠さず本音でお話しします。 もしお話ししてみて、「ちょっとうちの予算とは合わないな」と思われたら、違うお店に行かれても全然構いません!
一番大切なのは「ご家族が納得して、気持ちよく息子の門出を祝えること」です。まずは下見のつもりで、肩の力を抜いてお話ししに来てください。
写真撮影では、親御さんも「無理やり」引っ張り込みます(笑)

そして、L’ECRINで成人式スーツを仕立てていただいたお客様には、プロによる「写真撮影セット」をおつけ(有料)しているのですが、ここで私が必ずやっていることがあります。
「お父さん、お母さん!ほら、そこに突っ立ってないで、無理やりにでも一緒に写ってください!」
と、親御さんをカメラの前に引っ張り込むことです(笑)。
親御さんは最初、「いやいや、私はいいよ!息子の記念だから!」と照れて遠慮されます。 でも、よく考えてみてください。
子どもが大人になってから、親と一緒に「ちゃんとした家族写真」を撮る機会なんて、この先もう【結婚式】くらいしか残っていません。
何年も何十年も経ったあと、アルバムを見返したとき。 ピシッと大人のスーツを着こなした逞しい息子と、その隣で少し照れくさそうに、でも誇らしそうに微笑んでいるご両親の姿。
仕上がった写真をお渡しすると、親御さんは本当に嬉しそうに、中には少し目を潤ませながら喜んでくださいます。 その笑顔を見られたとき、「あぁ、この仕事をやっていて本当によかったな」と心から思うのです。
一生に一度のハタチ。家族みんなの想い出を作りに来てください
成人式は、ご本人にとってはもちろん特別な日ですが、20年間注いできた愛情を形にする「ご家族みんなのお祝い」でもあります。
普段は照れくさくて言えない「おめでとう」や「ありがとう」を、一着のスーツを通じて伝え合える。 そんな温かい時間を、ここ佐々町の小さなお店で一緒に過ごしてみませんか?
ご家族皆様のご来店を心よりお待ちしています。

