昔、前の職場で先輩からこう言われていました。
「お客さんにサイズを聞くな。身体を見ただけでジャストサイズのGパンを出して穿かせろ」
当時の私は「いやいや、そんなん分かるわけないやん……」って本気で思ってました(笑)。 でも、その時に叩き込まれたのが、「ジャストサイズをピタリと言い当てるのがプロだし、そうやってファンを作るんだ。ブランドの看板も大事だけど、『お前から買いたい』と言われる人間になれ」という言葉でした。
当時は必死でしたが、20年経った今、あの時の教えがめちゃくちゃ役に立っています。 人の身体を見続けていると、身長や体重なんて聞かなくても、骨格の傾きや重心の癖が自然と目に入ってくるようになるんです。
偉そうに言ってますが、私より仕立ての上手い人、凄い人なんて山のようにいます。 だからこそ完成なんてないし、今でも毎日が勉強です。
完全に職業病なんですが、今でも休日に街を歩いていると、すれ違う人の骨格ばかり無意識に目で追ってしまうんですよね。 「あ、あの人はかなり強いなで肩だな」 「あの歩き方は結構なO脚だな。パンツのクリースが外に逃げてるな」 なんて、頭の中で勝手にフィッティングを始めてしまう(笑)。
昔、どうしてもお客様の体型の癖や重心の歪みが掴みきれなかったとき、知り合いの整骨院の先生のところに通って「骨格の構造」を教えてもらっていた時期もあります。 それくらい、人の身体ってメジャーで測る数字(外周)だけじゃ絶対に分からないんです。
「猫背の鳩胸」という、一番面倒くさい体型

人の身体の面白さと難しさでいうと、まさに私自身の体型が「猫背の鳩胸」なんです。
「背中が丸まってるのに、胸が出てるってどういうこと?」って思いますよね。 普通、スーツの仕立ての教科書だとこう考えます。
- 猫背の人 ➔ 背中が出っ張るから、背中の生地を増やして前を削る
- 鳩胸の人 ➔ 胸が突き出るから、前の生地を増やして背中を削る
ところが「猫背の鳩胸」は、前も後ろも両方出っ張ってるんです。 厚みがあるから、パッと見はめちゃくちゃゴツく見えます。 でも、服を仕立てる側からすると、これほど面倒くさくて腕が試される体型はありません。
メジャーで測るだけのオーダーだと、こうやって失敗する
この体型を、メジャーでバストの外周だけ測って決める店に持っていくと、大体こうなります。
まず、「背中が丸いから」と猫背の補正だけを入れる。 すると背中は綺麗に収まるんですが、前の鳩胸に生地が引っ張られて、ジャケットのボタンを留めた瞬間にラペル(衿)が胸からパカパカ浮いてしまうんです。
「じゃあ、胸が入るようにワンサイズ上げましょうか」 って言われてサイズを上げると、今度は胸の頂点は入るけど、胸から脇の下にかけて生地がダブダブに余って、無駄なタルミとシワだらけになる。
身体はガッチリ男らしいのに、服のせいで「太った人がサイズの合わない服を着てる」みたいに見えてしまうんです。

骨格の癖は、隠すんじゃなくて立体で活かす
じゃあどうするかというと、「胸の出っ張り」と「背中の丸み」を別々の立体として捉えて、前後のバランスを調整するしかありません。
- 胸の突き出しをふんわり包み込むゆとりを作る
- 首の後ろはピタッと吸い付かせて、ラペルが絶対に浮かないように抑える
- でも、脇の下の余分なダブつきは限界まで削ぎ落とす
そうやって合わせると、胸元がパカパカ浮かないのに窮屈さが全くなくて、脇もスッキリして自分の身体の厚みがそのまま格好良さに変わります。
人の身体って、誰一人として既製品のマネキンみたいに真っ直ぐじゃありません。 パソコン仕事で肩が前に巻き込んでる人、スポーツでお尻が出てる人、強いなで肩の人。 どんな癖があっても、それはその人が生きてきた歴史だし、恥じることなんて何もないです。
大事なのは、メジャーの数字だけじゃなくて、その骨格の癖をちゃんと見てくれる人と一緒に服を作れるかどうかだと思います。

「既製品だといつも胸元が浮く」 「自分の体型、何を着てもしっくりこない」
そんな悩みがあるなら、一度ふらっと話しに来てください。 街中で骨格ばかり見ている仕立て屋が(笑)、あなたの身体に無理のない一番似合うバランスを一緒に考えます。

