肩や胸に合わせるとお腹まわりがブカブカになり、ウエストに合わせると腕が上がらない。筋トレやスポーツで体を鍛えている人ほど、既製スーツ選びで同じ壁にぶつかります。
マッチョな体型やガタイがいい体格の人がスーツで苦労するのは、体型が悪いからではありません。既製スーツのサイズ表が、もともと鍛えた体を想定して作られていないからです。
この記事では、筋肉質な人が既製スーツで困りやすい部位と、その理由を整理します。そのうえで、既製品で選ぶときのコツ、お直しでできること、オーダーで解決できることを順に解説します。
マッチョな人がスーツで困りやすい部位

筋肉のつき方は人それぞれですが、相談の多い悩みはおおむね次の5つに分かれます。
- 肩と二の腕:腕が袖に入らない、腕を前に出すと突っ張る
- 胸:前ボタンを留めると胸の上に横ジワやX字のシワが出る
- 背中:肩甲骨のあたりが張り、背中の真ん中が浮く
- 太ももとお尻:太ももに合わせるとウエストがガバガバになる
- ウエストとの差:上半身に合わせると胴回りが余って野暮ったく見える
どれか1つだけなら、サイズを上げたりお直しをしたりすれば何とかなることもあります。ただ鍛えている人の場合、これが2つ3つ重なることがほとんどです。肩に合わせればウエストが余り、ウエストに合わせれば肩が窮屈になる。この堂々めぐりが、マッチョな人のスーツ選びを難しくしています。
既製スーツが合わない理由は「胸とウエストの差」にある
日本の既製スーツの多くは、JIS(日本産業規格)の体型区分をもとにサイズが組まれています。よく目にする「A体」「AB体」「Y体」といった表記がそれで、胸囲とウエストの差によって体型を分けています。
| 体型区分 | 胸囲とウエストの差 | イメージ |
|---|---|---|
| Y体 | 16cm | 胸が厚く、ウエストが細い |
| YA体 | 14cm | Y体とA体の中間 |
| A体 | 12cm | 標準的な体型 |
| AB体 | 10cm | ややお腹まわりにゆとりがある |
| BB体 | 6cm | 恰幅がよい |
いちばん逆三角形寄りのY体でも、胸とウエストの差は16cmです。胸板が厚くウエストが絞れている人は、この差がそれ以上に開いていることが珍しくありません。サイズ表のどこにも、自分の体が収まる場所がないわけです。
さらに既製スーツは、ジャケットとスラックスがセットで売られています。そのため、肩幅、胸板、太ももといった体の中でいちばん大きい部位に合わせて、サイズを選ぶしかありません。その結果、ほかの部分がダボつき、スーツに着られているように見えてしまいます。
既製服しか着たことがない方は、スーツの本当のジャストサイズを知らないことが多いものです。入るか入らないかで選び続けるうちに、スーツは我慢して着るものだと思い込んでしまうのです。
部位別に見る、合わない原因
肩と腕:袖の太さより「アームホール」が効いている
腕が太い人は袖幅ばかりを気にしがちですが、着心地を大きく左右するのは腕の付け根のアームホールです。仕立ての世界では「鎌(かま)」とも呼びます。
袖をいくら太くしても、アームホールが標準の深さのままだと、付け根が圧迫されて腕を前に出せません。逆にアームホールをただ大きく広げると、腕を上げたときにジャケット全体が持ち上がってしまいます。太い腕を通しながら動きやすくするには、袖とアームホールをセットで設計し直す必要があります。
腕の付け根まわりが65cmあり、量販店でもほかのオーダー店でも断られてきた元ボディビルダーのスーツを仕立てた事例については、腕周り65cmの元ボディビルダーを仕立てた話で紹介しています。
背中:肩甲骨が出ていると真ん中が浮く
正面から見ると細身でスマートなのに、後ろから見ると背中の真ん中に逆三角形のたるみができている。腕を使うスポーツを続けてきた人に多い悩みです。
既製スーツの背中は、凹凸の少ない平らな背中を想定して作られています。肩甲骨まわりの筋肉が発達していると、左右の肩甲骨に生地が引っ張られ、そのあいだに生地の逃げ場がなくなって浮きが出ます。野球の投手、水泳、テニス、ボートなど、上半身を使う競技の経験者は一度後ろ姿を確認してみてください。
競艇選手や野球のピッチャーの背中を仕立てた話は、ジャケットの背中に「謎の逆三角形の浮き」ができる理由にまとめています。
太ももとお尻:「モモを細く」は失敗のもと
下半身を鍛えている人は、太ももに合わせるとウエストが余り、ウエストに合わせると太ももで引っかかるという悩みを抱えがちです。
ここでよくある失敗が、太ももが太く見えるからとモモ幅を細く詰めてしまうことです。スラックスのモモ幅は、お尻のすぐ下から始まっています。そこを削ると、立っているだけでお尻の下が引っ張られ、座った瞬間に強く締めつけられます。
すっきり見せたいなら、太ももにはゆとりを残し、膝から裾にかけて細くするのが正解です。人の目が向きやすいのは膝下から足首のラインなので、ここを整えるだけで脚全体が細く長く見えます。競輪選手のスラックスを仕立てた例は太もも65cm・ウエスト70cm。競輪選手のスラックスを仕立てて分かったことで紹介しています。
既製スーツで選ぶときのコツ
いきなりオーダーは敷居が高いという人に向けて、既製品で少しでも合うものを探すコツを紹介します。
肩と胸で選び、ウエストと裾はお直しで合わせる
ジャケットは、肩と胸が合うサイズを最優先で選びます。肩幅は後から直すのが難しい部分だからです。ウエストの絞りや袖丈、スラックスのウエストや裾丈は、多くの場合お直しで調整できます。逆にウエストに合わせて肩が窮屈なものを買うと、後から打つ手がありません。
Y体や「アスリート向け」の展開を探す
売り場によっては、Y体のサイズを多めにそろえていたり、胸とウエストの差を大きく取った体格のよい人向けのシリーズを置いていたりします。まずはY体から試着してみて、肩と胸の収まりを確かめるのが近道です。
ストレッチ素材を選ぶ
ポリウレタンなどが混ざったストレッチ生地は、筋肉の動きに合わせて伸びるので、細身のシルエットでも動きやすくなります。ただし化学繊維の割合が増えるほど、ウール100%に比べて静電気が起きやすく、太もも同士やお尻など擦れる部分がテカりやすくなる面もあります。動きやすさと風合いのどちらを優先するかで選ぶとよいでしょう。
試着では必ず動いてみる

鏡の前でまっすぐ立った姿だけで決めると、ほぼ確実に失敗します。腕を前に伸ばす、吊り革をつかむように腕を上げる、椅子に座る。この3つの動きで突っ張る場所がないかを確かめてください。後ろ姿は自分では見えないので、店員さんか同行者に写真を撮ってもらうと安心です。
お直しでできること、できないこと
既製スーツを買ったあとのお直しで、マッチョな人がよく頼むのは次のような内容です。
| 部位 | お直しのしやすさ | ひとこと |
|---|---|---|
| ジャケットのウエスト | 比較的しやすい | 胴回りの余りを詰めて、逆三角形に近づける |
| 袖丈・裾丈 | しやすい | 腕や脚の長さに合わせる基本のお直し |
| スラックスのウエスト | 比較的しやすい | 縫い代の範囲で出し詰めできる |
| 肩幅 | 難しい | 袖や肩まわりをほどく大がかりな作業になる |
| アームホール・背中 | ほぼ不可 | 型紙そのものの問題なので直しでは限界がある |
胴回りの余りや丈は直せますが、肩幅、アームホール、背中の立体感は、ジャケットの設計そのものに関わる部分です。ここが原因で合わない場合は、お直しでは解決しにくいと考えてください。スーツのお直し全般についてはスーツのお直しガイドでまとめています。
体格がいい人ほどオーダースーツが向いている理由
既製品やお直しで限界を感じたら、オーダーが現実的な選択肢になります。オーダーなら、次のような補正を体に合わせて入れられます。
- 腕の太さに合わせて、袖とアームホールをセットで設計する
- 肩甲骨の盛り上がりを包み込むように、背中に立体的なゆとりを作る
- お尻の高さや張り出しに合わせて、スラックスの後ろ側の形を変える
- 太ももにゆとりを残しながら、膝から下を細くしてすっきり見せる
特に体格差が大きい場合は、仮縫い(しつけ糸で組み立てた試着用の状態)を挟むと仕上がりの精度が上がります。前述の元ボディビルダーのお客様の場合も、仮縫いの試着で後ろ姿を確認し、お尻の厚みでジャケットの裾の切れ込みが開いてしまうのを本縫いで補正しました。
また、筋肉質な人ほど生地選びも大切です。高価な生地がいちばんよいとは限りません。タイトに仕立てるなら、ストレッチの効いた生地のほうが体の動きに無理なくついてきます。着る場面と動き方に合わせて選ぶのがいちばんです。
鍛えた体を活かすスーツを作りたい方へ
鍛えた体は、サイズさえ合えばスーツをいちばん格好よく見せてくれる体型です。肩の張りも胸の厚みも、合わない服の中では窮屈さの原因になりますが、合わせて仕立てればそのまま魅力になります。
L’ECRIN(レクラン)は、長崎県北松浦郡佐々町にある完全予約制・サロン貸切のオーダースーツ専門店です。ボディビルダーや競輪選手、野球経験者など、既製品が入らなかった方のご相談を多くいただいています。仮縫いはご希望に応じて承っており(有料)、店舗に来られない方には出張採寸(有料)や移動店舗でもうかがいます。料金の目安は料金案内をご覧ください。
オーダースーツのご相談
袖丈・裾丈・着丈も、肩や腕まわりも、サイズ表ではなくお客様の身体に合わせて仕立てます。既製品が合わずお困りの方も、お気軽にご相談ください。
ご来店は予約制で、サロンを貸し切りでご利用いただけます。
お電話でのご予約:0956-76-9512 ・ lecrin0707@gmail.com

